
失語症について
失語症とは
失語症は目に見えない障害です。それゆえ誤解されていることも多いです。医療関係者でも正しく理解していない場合が少なくありません。まして、突然失語症を発症したご本人やご家族は何が起きているのかわからず、これからどうなるのか不安な気持ちになったり、戸惑うことが多いと思います。
ここで、少し難しいかもしれませんが、失語症が起こるメカニズムについて説明します。失語症は脳卒中や事故などで大脳の言語中枢が傷つくことによって生じる言語の障害です。この言語中枢の働きについて、右の図のように、言葉を表出したり、理解したりする過程を、思考、言語(記号化・解読)、運動器官、感覚器官のレベルに分けて考えてみます。
たとえば私たちが「猫」を見て「ねこ」と言えるためには、それがよくペットとして飼うことが多い「猫」であることを正しく認識できる思考力があることが前提です。そしてその認識した対象を言語中枢で、日本人であれば「ねこ」という記号に変換(記号化)します。その記号を喉や口(運動器官)を使って言葉を発します。書く場合は手(運動器官)を使って仮名(「ねこ」または「ネコ」)や、漢字(「猫」)で書きます。また「ねこ」という記号を耳(感覚器官)で聞いて「猫」とわかるのは、その記号を言語中枢で解読するからです。「猫」という字を目(感覚器官)で見て認識できるのも同様です。
この言語中枢の働きである記号化(話すこと、書くこと)と解読(聞いて理解すること、読んで理解すること)が障害された状態が失語症です。

失語症の症状
失語症の症状は、言語中枢の損傷の程度によって人それぞれ異なります。軽症の場合、日常の会話ではほとんど症状が目立たないこともありますが、重症になると「はい」や「おはよう」といった簡単な言葉すら話せず、また周囲の会話がほとんど理解できなくなることもあります。
100人いれば100通りの症状があるといえます。以下に、一般的に見られる症状を説明します。
【話すこと】最もよく見られるのは喉まで出かかっているのに言葉が出てこない症状(喚語困難)です。私たちも人の名前が出てこないことがありますが、失語症になると「メガネ」や「時計」など身の回りのあらゆるものの名前が思い出せなくなります。何か言おうとするたびに言葉が出てこないので「あれ」「それ」という感じになります。
言い間違い(錯語):「メガネ」を「時計」、「みかん」を「りんご」と意味が近い言葉に誤ったり、「とけい」を「とてい」などと言葉の中の音を誤ったりすることがあります。
【聞いて理解すること】特に長い文や早口で言われた会話は聞いた側から消えていく感じになります。
【読み書き】一般的に漢字よりも仮名の方が読むことも書くことも難しくなります。これは仮名と漢字では脳内の処理の仕方が異なることによります。
【数・計算】数字も記号の一種なので理解が難しくなり、当然計算も困難になります。
失語症の症状は、言語中枢の損傷の程度によって人それぞれ異なります。軽症の場合、日常の会話ではほとんど症状が目立たないこともありますが、重症になると「はい」や「おはよう」といった簡単な言葉すら話せず、周囲の会話がほとんど理解できなくなることもあります。100人いれば100通りの症状があるといえます。以下に、一般的に見られる症状を説明します。
失語症と間違われやすい障害
構音障害、聴覚障害、認知症などは先の図で説明したように失語症とは全く異なります。
構音障害:喉や口の周りの麻痺などで、声がかすれたり呂律が回らなくなる障害です。
聴覚障害:失語症は聴覚の問題ではないので、特に大きい声で話しかける必要はありません。
認知症:記憶、状況判断、人格なども病前と変わらないので認知症とは全く区別されます。

失語症の回復
失語症の回復には個人差がありますが、一般的に発症後の数カ月間(急性期・回復期)は、損傷した脳が安定するにつれ、目に見える改善が見られることがあります。しかし、回復のペースは徐々に緩やかになり、期待したほどの成果が得られないまま病院でのリハビリが終了してしまうケースも少なくありません。
本当のリハビリは、自宅での生活(生活期)に移行してからが始まりです。日常生活を工夫し、会話環境を整えることが、言葉の回復や生活の質向上に大きな影響を与えます。しかし、こうした取り組みを一人で行うのは容易ではありません。家族や友人の支えに加え、地域の仲間や専門的な支援者の存在が不可欠です。
担当の言語聴覚士との相談を通じて適切なリハビリ方法を見つけたり、地域で開催されている失語症友の会に参加したりしましょう。友の会では、同じ経験を持つ仲間との交流から大きな励ましを得られるだけでなく、有益な情報や具体的なアドバイスも得ることができます。支え合いと専門的なサポートの輪を広げることで、失語症のある方が自分らしい生活を取り戻し、さらなる回復への道を切り開いていくことができるでしょう。
